男の靴雑誌LAST

Features

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ファクトリーメイドという矜持。

日本随一の歴史を誇る老舗・大塚製靴。そこで行われるグッドイヤーウェルテッドの靴づくりは、職人の手仕事やノウハウも援用しながら今なお進化の途上にあった。

太田隆生│写真 photographs_Takao Ohta
菅原幸裕│文 text_Yukihiro Sugawara

伊勢丹別注のスエード&スムーズのコンビフルブローグ。ここにインデアンクラフトのオーナメントがつい て完成する。ドレスシューズの新機軸だ。

伊勢丹別注のスエード&スムーズのコンビフルブローグ。ここにインデアンクラフトのオーナメントがつい て完成する。ドレスシューズの新機軸だ。

オーダーメイドのラスト。表面には修整個所がマークされている。

オーダーメイドのラスト。表面には修整個所がマークされている。

顧客の足を採寸したシートを照らし合わせながら、ラストづくりが行われる。

顧客の足を採寸したシートを照らし合わせながら、ラストづくりが行われる。

キャリア33年というベテラン職人石渡氏が若い職人の作業を見守り、時折アドバイスしている。

キャリア33年というベテラン職人石渡氏が若い職人の作業を見守り、時折アドバイスしている。

仮縫いを終えて、底を外した状態。この後修整を加えて靴に仕上げていく。

仮縫いを終えて、底を外した状態。この後修整を加えて靴に仕上げていく。

ハンドソーンの職人たちのスペースの隣には、防水性や耐久性を試験する機器類が置かれ、テストが行われていた。品質管理も高水準だ。

ハンドソーンの職人たちのスペースの隣には、防水性や耐久性を試験する機器類が置かれ、テストが行われていた。品質管理も高水準だ。

ハンドソーンの職人たちのスペース。工房というよりオフィス然とした雰囲気がユニーク。

ハンドソーンの職人たちのスペース。工房というよりオフィス然とした雰囲気がユニーク。

今日、大塚製靴といえば、『ハッシュパピー』や『ジョンストン&マーフィー』、『ポール・スチュアート』などの著名ブランドを扱い、ドレスシューズはもちろん、カジュアルからコンフォートまで、幅広い種類の靴を取り扱う総合シューズメーカーとして知られている。その一方で、好事家の間で大人気となった「グランパブーツ(ボタンアップブーツ)」など、時折目を見張るようなクラフツマンシップを発揮してきた。近年では『OTSUKA M-5』『オーツカ ショーテン』など各種のブランドで、ヨーロッパの高級既製靴の向こうを張るような、職人性を盛り込んだ靴を数々リリースしている。
同社の歴史は、明治以降の日本の近代化・西欧化そのものであったといっても、決して言い過ぎではないだろう。明治5年(1872年)、芝露月町(現在の港区新橋)に大塚商店を創業。創業後数年で皇室関連の靴を手がけ、陸海軍の官給靴の製造も開始している。パリ万博に靴を出品、プライズを得るなど、当時から文字通り日本を代表するシューズメーカーだった。大正時代にはグッドイヤーウェルテッドのマシンを導入して機械化をはかっている。第二次大戦後は、大塚製靴株式会社に改組し、神奈川・日吉に工場を建設。自社ブランドの他さまざまな著名ブランドの靴を手がけ、その一方でチャーチやグレンソンなど、多くの欧米のシューズブランドを日本に紹介して、日本のシューズマーケットを牽引してきた。
現在も靴づくりが行われている日吉のファクトリーは、90年代に新たに建設されたもの。住宅地に建つファクトリーの外観は、工場というよりも本社ビルディングという趣。かつては現在よりも広大な敷地に平屋建てだったというが、その面影は感じられない。同社の歴史やその由緒正しさを感じさせる、皇室関連の靴などの展示があるエントランスのホールを抜けて、2階に上がると、靴づくりの現場が広がっていた。

整然とラックに収められたラスト。新たに展開される『オーツカ プラス』では、内振り、踵の非対称な形状などを盛り込んだ新ラストを開発した。

整然とラックに収められたラスト。新たに展開される『オーツカ プラス』では、内振り、踵の非対称な形状などを盛り込んだ新ラストを開発した。

近年の大塚製靴の象徴的存在、ボタンアップ(グランパ)ブーツ。

近年の大塚製靴の象徴的存在、ボタンアップ(グランパ)ブーツ。

アッパーのパーツのエッジを、紙型をたよりに手作業で折り込む。こうした職人性の高い工程を盛り込みつつ、工場生産を実現させている。

アッパーのパーツのエッジを、紙型をたよりに手作業で折り込む。こうした職人性の高い工程を盛り込みつつ、工場生産を実現させている。

ミシンのピッチも実に細かい。これも職人技のひとつ。

ミシンのピッチも実に細かい。これも職人技のひとつ。

時折生産工程の中にハンドソーンの職人が入り、作業の方向性などを実際に示していく。

時折生産工程の中にハンドソーンの職人が入り、作業の方向性などを実際に示していく。

ヒールカウンター。あらかじめノリがついた部材を用意している。「実作業への準備」は、合理的で高品質な物づくりには重要な要素。

ヒールカウンター。あらかじめノリがついた部材を用意している。「実作業への準備」は、合理的で高品質な物づくりには重要な要素。

現在ここではグッドイヤーウェルテッドからセメント製法まで、複数の製法を手がけているという。その中でも特筆すべきは、ハンドソーンの工程がファクトリーの中にあることだ。キャリア30年以上のベテランを含む4名の職人が、機械式の製靴工程に隣接するスペースに常駐している。六本木ヒルズの「シューマニュファクチャーズ オーツカ」や伊勢丹新宿店などで受注したオーダーメイドの靴を手がけるほか、修理、さらには新たな靴の製法を現場に導入する際の、さまざまな試作や技術の指導なども行っているという。

「もっとも私たちは、あくまで工場生産ということに、こだわっているのです」
取材班を案内していた、大塚製靴の猪山純史氏がこのように語った。例えば職人性が感じられる「ヤハズがけ」のようなディテールをレディメイドの靴に取り入れる場合、ハンドソーンの職人仕事を、どのように生産工程の中で実現するか、ディテールの形状や作業の流れを、前述の職人たちと生産現場との間でやりとりを行いプロセスを形成していくのだという。

中物には粒コルクを使用。さらに『オーツカ プラス』ではインソールにスリットを入れた上で粒コルクを使い、より屈曲性を高めている。

中物には粒コルクを使用。さらに『オーツカ プラス』ではインソールにスリットを入れた上で粒コルクを使い、より屈曲性を高めている。

意外な色のアッパーは、製品染め&仕上げを前提に選ばれた、素の素材感を保った革を使っている。

意外な色のアッパーは、製品染め&仕上げを前提に選ばれた、素の素材感を保った革を使っている。

クリッキングは紙のパターンを使い、ハンドで行われている様子が見られた。

クリッキングは紙のパターンを使い、ハンドで行われている様子が見られた。

ネイビーに色づけ、仕上げられた『オーツカ プラス』のフルブローグ。手作業を併用した色出しも特徴だ。▷¥45,000

ネイビーに色づけ、仕上げられた『オーツカ プラス』のフルブローグ。手作業を併用した色出しも特徴だ。▷¥45,000

こちらはバーガンディカラーのプレーントウ。ラストの独特の形状が味わえるモデル。▷¥45,000

こちらはバーガンディカラーのプレーントウ。ラストの独特の形状が味わえるモデル。▷¥45,000

工場内、生産される靴はラックにて各工程間を運ばれていた。以前はデュオレールという流れ作業用の機械も稼動していたが、多様かつ複雑な靴づくりゆえに現在のやり方になったという。

工場内、生産される靴はラックにて各工程間を運ばれていた。以前はデュオレールという流れ作業用の機械も稼動していたが、多様かつ複雑な靴づくりゆえに現在のやり方になったという。

こうしたレディメイドシューズづくりへの矜持とノウハウが発揮されたのが、この秋展開を開始する「オーツカ プラス」のシリーズだ。その特徴は、製法と部材にある。グッドイヤーウェルテッドをベースに、土踏まず周辺は縫製せず圧着して絞りを実現。さらにインソールには、グッドイヤーウェルテッドに欠かせない存在である布製のリブが付いたものではなく、インソールと同素材のベンズ(革)でつくられたテープ状のパーツを底面に縫い付けたものを使っている。それらによってグッドイヤーウェルテッドの構造と長所はそのままに、この製法の靴に付随する硬い履き心地を解消し、返りの良さを実現しているという。

「この靴のベースになっているマッケイ・グッドイヤーの工程も、当初はハンドソーンの職人の手助けが必要でしたが、現在は生産現場で出来るようになっています」と語る猪山氏。高級既製靴における靴づくり、特にグッドイヤーウェルテッドは、一見数十年以上、極端に言えば100年不変のように映るかもしれない。だかその現場では、このように日々新たな課題への挑戦が行われ、更新されている。さらには、これまでと異なる新たな構造への試み。そう、クラフツマンシップとは決して「保つ」ものではなく、不断の追求と変化の積み重ねによって培われるのだと、改めて気づかされる靴づくりだった。
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About LAST

LASTとは?

すべての紳士たちに向けた靴の専門誌です。こだわりを持つ男にとって、装いの要ともいえる靴を取り上げ、国内外の取材を織り交ぜながら、靴そのものの魅力と、靴を軸としたメンズスタイルの奥深い世界を紹介します。世界唯一の靴専門誌として、クオリティの高いヴィジュアルと、深い知識を備えた文章で、成熟した知性にとっても満足をもたらす誌面を追求していきます。タイトルの『LAST(ラスト)』は 、靴をつくる際に必要である木型(靴型)に由来します。