Men's shoes magazine

Features

issue15

ecco_200

エコー

革から靴まで、進化を続けるものづくりの現場。

今津聡子│写真 photographs_Satoko Imazu
菅原幸裕│文 text_Yukihiro Sugawara

(フルイドフォルム製法で成型された直後の「ヴィトラス アーティザン」のソール。踵後部にある2 つの穴は、ポリウレタン(PU)を充填するためのもの。)



i n Denmark

足を中心に考え目指すのは「魔法」の靴づくり。

本社前に設置された足型のモニュメントは、同社が足に即した靴づくりを目指すマニフェストでもある。

本社前に設置された足型のモニュメントは、同社が足に即した靴づくりを目指すマニフェストでもある。

デンマーク、トンダーのエコー本社。ここからほど近い創業地のブレデブロには、現在もR&Dの工房がある。

デンマーク、トンダーのエコー本社。ここからほど近い創業地のブレデブロには、現在もR&Dの工房がある。

 デンマーク、トンダーは、デニッシュデザインを代表するインテリアデザイナー、ハンス・J・ウェグナー生誕の地。そしてシューズブランド「エコー」本社所在地でもある。

「フルイドフォルム(FLUIDFORM™)」という、同社独自の製法でつくられるコンフォタブルかつ機能的な靴で、エコーは男女幅広い層から支持されてきた。最近では、「ヴィトラス」などのモデルで、高級紳士靴の領域にも注力している。そんなエコーの魅力を解題すべく、このデンマークのほか、オランダそしてポルトガルを巡った。

「エコーでの靴づくりは、動いている足から始まります。木型には足の動きも盛り込みます。そして、そうした木型形状を再現できるのが、フルイドフォルム製法なのです」

 こう説明するのは、2017年よりグローバル クリエイティブ ディレクターを務めるリアム・マーハー氏。オランダのデニムブランド『デンハム』などを経て現職に就いた、メンズファッションに造詣が深い人だ。彼は現状のエコーの強みとして、
「人間工学に基づく木型やデザイン」
「クラフト性と進歩性を兼ね備えたレザーづくり」「フルイドフォルムなどの快適性を実現するテクノロジー」という3つの要素を挙げた。

 デザインディレクターのニキ・テステンセン氏が、最新モデル「ヴィトラス アーティザン」に使われる「フレックスフレーム」を手に取り、靴づくりの一例を説明する。そのパーツはソール外周を象った革製の枠の中に、樹脂の骨組みが配された新開発のものだった。

「この枠の中に、フルイドフォルム製法で自社開発のPU(ポリウレタン)を流し込みます。見た目はクラシックながら、硬さがない快適な履き心地を実現します」

 そして、マーハー氏がやや詩的な表現で、次のように続けた。
「いわば魔法のようなものです。人の足を再現したラストとこれが合わさり、PUが流し込まれると、素晴らしい履き心地の靴になる。それは芋虫が蝶になるようなものですね」

本社に併設されたアーカイヴ。かつてつくられたエコーの靴がいつでも参照できるようになっている。 

本社に併設されたアーカイヴ。かつてつくられたエコーの靴がいつでも参照できるようになっている。 

創業地ブレデブロの社屋に設置されている、エコーのミュージアム『Upstairs』の展示より、創業者であるカール・ツースビーの写真。

創業地ブレデブロの社屋に設置されている、エコーのミュージアム『Upstairs』の展示より、創業者であるカール・ツースビーの写真。

『Upstairs』の展示から、1980 年代に放映されたとおぼしきTVCMとスニーカー。フルイドフォルム製法は当時から導入されていた。

『Upstairs』の展示から、1980 年代に放映されたとおぼしきTVCMとスニーカー。フルイドフォルム製法は当時から導入されていた。

デザインディレクターのニキ・テステンセン氏が手にした「ヴィトラス アーティザン」のソールに使われるパーツ。

デザインディレクターのニキ・テステンセン氏が手にした「ヴィトラス アーティザン」のソールに使われるパーツ。

本社内のデザインスタジオ。開放感ある雰囲気だ。

本社内のデザインスタジオ。開放感ある雰囲気だ。

グローバル クリエイティブ ディレクターのリアム・マーハー氏。 

グローバル クリエイティブ ディレクターのリアム・マーハー氏。 

取材班が招待されたマーハー氏の自宅には、彼が収集した、数多くのヴィンテージの服などが収められたアーカイヴルームが。

取材班が招待されたマーハー氏の自宅には、彼が収集した、数多くのヴィンテージの服などが収められたアーカイヴルームが。

エコー・レザーのデザインルームの棚に並べられたレザーサンプルブック。その種類は膨大だ。

エコー・レザーのデザインルームの棚に並べられたレザーサンプルブック。その種類は膨大だ。

エコー・レザー代表のパノス・ミタロス氏。ギリシャにて代々続くタンナーの家系に生まれ、24 歳よりエコーに勤務、2000 年にエコー・レザーをスタートした。

エコー・レザー代表のパノス・ミタロス氏。ギリシャにて代々続くタンナーの家系に生まれ、24 歳よりエコーに勤務、2000 年にエコー・レザーをスタートした。

in Holland

全てをオープンに開かれた精神がイノベーションを生む。
「ECCO」のロゴは、本来閉じているはずの「O」に隙間がある。
「すべての文字が〝空いて〞いる、これは、エコーが外に対して常に開かれていることを象徴しています」

 こう語るのは、「エコー・レザー」社の代表兼エコー社上級副社長のパノス・ミタロス氏。その言葉通り、エコー・レザーはエコー以外との取引も多く、それは取扱量の半分に達するという。こうした外部との交流もあり、エコー・レザーは次々斬新な革を世に送り出している。熱に反応し色が変化する「クロマタファー」、極薄高強度な「ダイニーマ」、透明なレザー「アパリシオン」など、いずれも革の既成概念を軽々と超えるものだ。
「私たちが提供しているのはイノベーションです。レザー産業というと変わり映えしない、伝統的なものと思われがちですが、それを打破するようなものをつくりたいと思っています。ゆえに私たちはたとえ少ない数量でも、イノベーションを求めるデザイナーらと協業しています」

巨大なドラムが8 基並ぶ「ビームハウス」内部。 

巨大なドラムが8 基並ぶ「ビームハウス」内部。 

牛の原皮はオランダやドイツなどヨーロッパが中心。カーフに関しては世界最大のタンナーである。

牛の原皮はオランダやドイツなどヨーロッパが中心。カーフに関しては世界最大のタンナーである。

クロム鞣しを行った「ウェットブルー」の状態。クロムだけでなくヴェジタブルやアルミニウムといったさまざまタンニングプロセスに対応しているという。

クロム鞣しを行った「ウェットブルー」の状態。クロムだけでなくヴェジタブルやアルミニウムといったさまざまタンニングプロセスに対応しているという。

エコー・レザー本社。現在エコー・レザーは世界に4 つのタナリーを保有している。

エコー・レザー本社。現在エコー・レザーは世界に4 つのタナリーを保有している。

ウエットブルーから水分を抜いたものが、レザーと呼ばれる。これはエキスパートが品質をチェックしてグレード(等級)をつけている様子。

ウエットブルーから水分を抜いたものが、レザーと呼ばれる。これはエキスパートが品質をチェックしてグレード(等級)をつけている様子。

インディゴ染めの革をトグリングという手法でストレッチしている様子。こうした手作業も随所に盛り込まれている。

インディゴ染めの革をトグリングという手法でストレッチしている様子。こうした手作業も随所に盛り込まれている。

 こうしたミタロス氏の言葉は、アムステルダム郊外のタナリーの現場を見ることで、より強く実感させられた。250名のワーカーが従事するこのタナリーは、世界的にも最大級。鞣しの薬品に耐えうるようあえて木の梁(beam)を採用した「ビームハウス」内には、大型ドラムが何台も並ぶ。そしてその規模以上に特筆すべきなのが、敷地内にあるR&Dラボの存在。そこはまさに「小さなタナリー」と表現できるほど設備が揃い、鞣しや染色、加工から仕上げまで、革づくりの全工程が実験できるようになっていた。
「私たちは日々新しい革を研究していますが、年に一度、外部の方々に向けてこのラボを開放する『HOT SHOP』というイベントを行います。そこで若いデザイナーたちから出てくる突拍子もないアイデアに、ほんとうに触発されますね」

 こう語るのは、イノベーション・スペシャリストのマキス・サッペルグロウ氏。イノベーションを真に支えているのは、その設備以上に、人々の開かれた精神なのかもしれない。

出荷前の最終検査。色彩度を整えた光での目視と、コンピュータでの成分検査を併用している。

出荷前の最終検査。色彩度を整えた光での目視と、コンピュータでの成分検査を併用している。

R&D ラボで行われていた、洗いをかけた革のカラー
チェック。400 種以上の薬品から調合とテストを繰り返して染色のレシピがつくられる。

R&D ラボで行われていた、洗いをかけた革のカラー
チェック。400 種以上の薬品から調合とテストを繰り返して染色のレシピがつくられる。

in Portugal

靴づくりを支えるテクノロジーとクラフツマンシップ。

プロトタイプやサンプルをつくるR&Dの現場より、アッパーと中底部のファブリック(ストロベル)を縫い付けている様子。袋状に縫われたアッパーに、フルイドフォルム製法で底づけを行う。

プロトタイプやサンプルをつくるR&Dの現場より、アッパーと中底部のファブリック(ストロベル)を縫い付けている様子。袋状に縫われたアッパーに、フルイドフォルム製法で底づけを行う。

 エコーは全世界に6つの靴工場を展開し、年間で2千万足を生産している。中でもポルトガルのファクトリーはエコー本社との関係が緊密で、デザイナーとともに商品づくりを行うR&Dの機能を担う一方、高度な技術を要するプロダクトを数多く手がけている。
「工場全体では1300名が働いていますが、R&D部門にはそのうち230名が従事しています」

 エコー・ポルトガル工場長、グスタボ・クレマー氏の言葉通り、先のエコー・レザー同様、工場内に工場全体の機能を凝縮したようなR&Dセクションがある。そこで行われているのは、プロトタイプやサンプルをつくる作業。デザインから各種パターンや金型のベースとなるデータをつくり、アッパーの縫製、フルイドフォルム製法による底付けまで、靴づくりがひと通り行われている。そして、大量に靴を生産するための準備段階として、さまざまな工程も含めて靴をめぐる「ストーリー」がそこでクリエイトされるのだ。

手作業でアッパーのパーツを剝く(スカイヴ)様子。

手作業でアッパーのパーツを剝く(スカイヴ)様子。

踵部の縫製の様子。ちなみにプロダクト用のアッパーはインドネシアのファクトリーで縫われ、ポルトガルに送られて底づけされる。

踵部の縫製の様子。ちなみにプロダクト用のアッパーはインドネシアのファクトリーで縫われ、ポルトガルに送られて底づけされる。

さまざま手作業によってアッパーがつくられるのは、ノーザンプトンのファクトリーと同様。R&Dのワーカーは高い技術を持ち、9 割の職人が全ての工程をこなせるという。

さまざま手作業によってアッパーがつくられるのは、ノーザンプトンのファクトリーと同様。R&Dのワーカーは高い技術を持ち、9 割の職人が全ての工程をこなせるという。

エコー・ポルトガルの外観。約1300 名の従業員が、交代制で勤務し、24 時間操業している。

エコー・ポルトガルの外観。約1300 名の従業員が、交代制で勤務し、24 時間操業している。

左がフルイドフォルム成型後の靴、右が成型前のラストを入れた状態のアッパー。

左がフルイドフォルム成型後の靴、右が成型前のラストを入れた状態のアッパー。

 取材時にはちょうどドレスシューズの最新モデル「ヴィトラス アーティザン」のセールスサンプルがつくられていた。フルイドフォルム製法の底づけでは、デンマークで見たパーツがヒールのパーツとともに金型上に置かれ、そこに木型が入ったアッパーが乗る格好で両側の金型が閉じ、PUが充填される。その間約180秒。その後PUを安定化させるためにクールダウンさせる工程が必要だが、ごく短時間でソールが、靴
の大半が出来上がる。

 だが、このR&Dの後で案内された木型や金型づくりの現場で、エコーの靴づくりの深みを思い知らされ
た。ソールや各種パーツなどの成型に使われる金型は自社内でアルミニウムの塊から削り出される。コンピュータと連動した機械で大枠がつくられるものの、最終的には手作業で仕上げるという。1ペアの靴に対して必要な金型は6つ。展開モデルやサイズ数、求められる作業精度を鑑みると、フルイドフォルム製法の一瞬の背後には、膨大な時間とテクノロジー、そしてクラフツマンシップが存在していることがわかる。

 取材終盤、プロダクションの最終工程で、話題のモデル「エキソストライク」ほか複数の靴がランダムにチェックを待っているのを見た。一見非効率に見えるその様子はまた、多品種をものともしないファクトリ
ーのポテンシャルが端的に表れているように思えたのだった。

このようにソール底面の形状の金型の上に、先述のパーツを置く。

このようにソール底面の形状の金型の上に、先述のパーツを置く。

左の状態の上に木型が入ったアッパーを乗せて、両側からサイドの形をつくる金型ではさむ。 

左の状態の上に木型が入ったアッパーを乗せて、両側からサイドの形をつくる金型ではさむ。 

PUを充填した状態。手前に漏れ出した液体状のPU が見える。

PUを充填した状態。手前に漏れ出した液体状のPU が見える。

金型が開いて靴が現れた様子。枠の内側にはPU が充填され、アッパーと一体化している。この後革の枠は丸コバに加工される。 

金型が開いて靴が現れた様子。枠の内側にはPU が充填され、アッパーと一体化している。この後革の枠は丸コバに加工される。 

「ヴィトラスアーティザン」のアッパーを染色する様子。このようにドレス系シューズの仕上げは手作業で行われることが多い。

「ヴィトラスアーティザン」のアッパーを染色する様子。このようにドレス系シューズの仕上げは手作業で行われることが多い。

プロダクション工程の終盤、検査と箱詰めを前にした人気モデル「エキソストライク」。生産に技術を要し時間がかかるモデルゆえ、ここポルトガルのファクトリーでつくられるという。

プロダクション工程の終盤、検査と箱詰めを前にした人気モデル「エキソストライク」。生産に技術を要し時間がかかるモデルゆえ、ここポルトガルのファクトリーでつくられるという。

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